YOUTUBE SCRIPT SAMPLE — 事件解説/ナレーション
名前しか残さなかった犯人
〜1962-63年、東京を振り回した「草加次郎」事件〜
自主制作サンプルです。クライアント案件ではありません。実在の未解決事件を扱うため、事実は当時の報道・資料をもとに構成し、末尾に出典と注記を明記しています。本ページはフル尺の全文を掲載しています。
この台本で見ていただきたいところ
- 「金を要求するのに、一度も受け取りに来ない」という行動の矛盾を軸に置いた構成
- 10か月の出来事を時系列を混乱させない情報の出し順で積み上げる本編
- 資料により日付が食い違う箇所は断定を避けて幅を持たせる記載
- 参考動画は字幕全文まで確認し、事実誤りのある動画は構成の参考にとどめる調査の進め方
ナレーション1962年の秋、東京。一通の封筒から、すべてが始まりました。
ナレーション封を開けた人は右手に火傷を負います。中に仕掛けられていたのは、手製の発火装置でした。
ナレーションそして装置には、名前が書かれていました。
ナレーション草加次郎。この名前を持つ人物は、それから10か月にわたって東京で爆発と脅迫を繰り返します。映画館で、電話ボックスで、寺の境内で、そして地下鉄の車内で。
ナレーションけれど、この事件のいちばん奇妙な点は、爆発そのものではありません。
ナレーション犯人は、たびたび現金を要求しました。ところが、受け取りの場所に、ただの一度も現れなかったんです。
ナレーション脅すのに、奪わない。名乗るのに、正体を見せない。警視庁が大捜査網を敷いても、犯人はついに特定されず、事件は時効を迎えました。
ナレーション今日は、名前しか残さなかったこの犯人の10か月を、当時の報道と資料からたどっていきます。
テロップ:「この動画で分かること」
ナレーション話すことは3つです。
ナレーション1つ目、1962年11月から翌年9月まで、東京で何が起きたのか。その時系列です。
ナレーション2つ目、この犯人の何が奇妙だったのか。要求と行動が食い違う、その中身です。
ナレーション3つ目、指紋も筆跡も残っていたのに、なぜ捕まらなかったのか。当時の捜査の限界です。
ナレーション3つ目まで聞いていただくと、この事件が60年以上前の昔話ではなく、今の話とつながっていることが分かるはずです。
テロップ:「封筒から始まった」
ナレーション1962年、昭和37年の11月4日。資料によっては5日と記されていますが、この日の午前11時ごろ、品川区にある歌手・島倉千代子さんの後援会事務所に、一通の封筒が届きました。
ナレーション差出人の名前はありません。封筒は二重になっていました。
ナレーション事務所の23歳の男性職員が封を開けると、中から細長い筒が出てきました。筒には紙が挟まっていて、それを引き抜いた瞬間、筒が発火します。
ナレーション職員は右手に全治2週間の火傷を負いました。
ナレーションそして焼け残った装置には、文字が書かれていました。「祝」、「呪」。お祝いの祝と、のろいの呪です。その横に、差出人の名前がありました。
ナレーション草加次郎。聞いたことのない名前です。実在の人物なのか、偽名なのか。この時点では誰にも分かりません。
ナレーション9日後の11月13日、今度は港区麻布に住む女性の自宅へ、同じ型の装置が郵送されます。こちらは発火せず、未遂に終わりました。筆跡は最初の封筒と一致。ただし署名は「草加」ではなく「杉加次郎」と書かれていました。
ナレーション同じ人間が、名前を少しずつ変えながら、送り続けている。警察はそう判断します。
テロップ:「爆発は、人の集まる場所へ」
ナレーションここから、舞台が郵便物から街へ移ります。
ナレーション11月20日、有楽町の映画館、ニュー東宝の客席で紙筒が爆発。19歳の女性客が火傷を負いました。
ナレーション11月26日には、日比谷の映画館の男子トイレで爆発。このときは負傷者が出ませんでしたが、現場から重要なものが見つかります。
ナレーション指紋です。犯人につながる、物的な手がかりでした。ここは後で、もう一度出てきます。
ナレーション11月29日、世田谷の電話ボックスで爆発。中にいた25歳の男性が火傷。
ナレーション12月12日には、浅草寺の境内で、本に仕掛けられた発火装置が見つかりました。処理の際に警備員が負傷したと伝えられています。
ナレーション映画館、電話ボックス、寺。狙われたのは、誰でも入れる場所ばかりです。特定の誰かへの恨みなら、標的は一貫するはずです。ところがこの犯人は、不特定の場所に仕掛けを置いていく。
ナレーション被害者どうしに、つながりはありませんでした。警察は動機の線から容疑者を絞ることが、できなくなっていきます。
テロップ:「要求はする。しかし、現れない」
ナレーション年が明けて1963年。犯人の行動は脅迫へ移ります。
ナレーション5月から9月にかけて、当時18歳だった女優、吉永小百合さんの自宅に、草加次郎を名乗る脅迫状が6通届きました。封筒には拳銃の弾丸が同封され、要求額は100万円。当時の大卒初任給が2万円に届かない時代ですから、今の感覚ではおよそ1千万円級の要求です。
ナレーションしかも受け渡しの方法として、犯人はこう指定しました。走っている列車から、現金を投げ落とせ。
ナレーションこれ、この年の春に公開された映画「天国と地獄」の身代金受け渡しと、同じ手口なんです。犯人は明らかにこの映画を見ています。
ナレーション警察は受け渡しの指定日に張り込みました。ところが、犯人は現れません。
ナレーション一度だけではありません。この事件を通じて、犯人は複数回、現金を要求しています。渋谷のデパートでも夏に爆発と脅迫を繰り返しました。それなのに、受け取りの場に姿を見せたことは、ただの一度もないんです。
ナレーション本気で金が欲しいなら、取りに来ないのは筋が通りません。捕まるのが怖くて来られないなら、そもそも要求を繰り返す意味がない。
ナレーション金が目的ではなく、警察と世間を振り回すことそのものが目的だったのではないか。そう見る余地がここで出てきます。
ナレーションそして7月には、事件がもう一段、危険な方へ進みます。上野公園のそばで、屋台の店主が何者かに銃で撃たれ、全治3か月の重傷を負いました。後日、上野警察署に拳銃の弾丸が郵送され、警察は草加次郎による犯行と判断します。
ナレーション発火装置から、拳銃へ。悪意の道具が、明らかに強くなっていました。
テロップ:「1963年9月5日、地下鉄京橋駅」
ナレーションそして、最後の事件が起きます。
ナレーション1963年9月5日、午後8時14分ごろ。銀座線の京橋駅に停まっていた電車の車内で、座席の下に置かれた装置が爆発しました。
ナレーション乗客10人が重軽傷を負いました。帰宅ラッシュの名残が残る時間帯の、満員に近い車内です。これまでの発火騒ぎとは規模の違う、無差別の爆破でした。
ナレーション装置は時計仕掛けの時限式でした。針が決めた時刻まで進むと起爆する仕組みで、犯人は爆発の瞬間、その場にいる必要すらありません。
ナレーションそして、回収された部品の乾電池に、文字が刻まれていました。
ナレーション次、郎。草加次郎の、次郎です。
ナレーションわざわざ自分の署名を、爆弾の部品に刻んでおく。誰に頼まれたわけでもないのに、これは自分の仕事だと主張している。犯人にとってこの名前が、ただの偽名以上の意味を持っていたことがうかがえます。
ナレーション警視庁は一連の事件を同一犯によるものと断定し、大捜査網を敷きました。
ナレーションしかし、草加次郎の犯行はこの京橋駅を最後に、ぷっつりと途絶えます。
テロップ:「指紋も筆跡もあった。それでも届かなかった」
ナレーションここからは捜査の話です。
ナレーション警察の手元には手がかりがありました。日比谷の映画館で採れた指紋。脅迫状の筆跡。装置の部品や構造。動員された捜査員は、のべ1万9千人と伝えられています。火薬や銃器に詳しい人物など、およそ9,600人がリストに載りました。
ナレーション指紋まであって、なぜ捕まらないのか。今の感覚では不思議に思えます。
ナレーション理由は、当時の指紋の使い方にあります。
ナレーションこの時代、指紋の照合先は、前科のある人の記録がほとんどでした。つまり、一度も捕まったことのない人間の指紋は、照合のしようがないんです。
ナレーション草加次郎の指紋は、記録のどこにも該当しませんでした。ここから警察は、犯人には前科がないと推定します。
ナレーションこれは捜査にとって、かなり不利な結論です。犯罪者のリストの外側にいる人間を、1千万人都市の東京から探さなければならない。
ナレーションしかも当時は、防犯カメラもNシステムもDNA型鑑定もありません。郵便物は毎日大量に流れ、誰がポストに投函したかを後から特定する手段は、事実上ありませんでした。
ナレーション物証はあるのに、突き合わせる相手がいない。捜査は容疑者を一人ずつ潰していく人海戦術に頼るしかなく、それでも草加次郎には届きませんでした。
テロップ:「なぜ、ぷっつり止まったのか」
ナレーションもうひとつ、この事件には説明のつかない謎があります。犯行の止まり方です。
ナレーション10か月のあいだ、犯人はほぼ毎月のように何かを仕掛けてきました。それが京橋駅の爆破を最後に、予告も、脅迫状も、一切なくなります。段階を踏んで手口を強めてきた人間が、いちばん大きな事件を起こした直後に沈黙するんです。
ナレーション考えられる可能性はいくつかあります。
ナレーション病気や事故で、犯行を続けられなくなった。別の罪で捕まっていて、外にいなかった。あるいは、10人が負傷した爆破の大きさに、犯人自身が引いてしまった。
ナレーションただ、先に言っておくと、このどれにも裏付けはありません。決め手になる材料は、当時も今も見つかっていないんです。
ナレーションはっきり言えるのは、ひとつだけです。騒ぎを起こし続けることに執着していた人間が、ある日を境に、草加次郎という名前を完全に捨てた。その理由すら、ほかのすべてと同じように、分からないまま残されました。
テロップ:「名前だけが残った」
ナレーション京橋駅の爆発から15年後。1978年9月5日、公訴時効が成立しました。
ナレーション犯人は特定されないまま、事件は法的に終わります。
ナレーションこの事件、実は名前の読み方すら確定していません。「そうか」次郎なのか、「くさか」次郎なのか。犯人が一度も名乗って発音しなかったので、誰にも分からないままなんです。
ナレーション分かっているのは、前科がないと推定されたこと。火薬の知識があったこと。映画を見ていたこと。そして、名前を残すことに強いこだわりがあったこと。それだけです。
ナレーション動機も、素性も、その後どう生きたのかも、何ひとつ分かっていません。
テロップ:「60年前の話ではない」
ナレーション最後に、この事件が今とつながっている点を話します。
ナレーション草加次郎は、実利のためではなく、世間の反応そのものを目当てに犯行を重ねた疑いが濃い犯人でした。名乗り、予告し、騒ぎが大きくなるのを眺める。後の時代に「劇場型犯罪」と呼ばれる型の、早い例だと言われています。
ナレーション匿名の名前で世間を騒がせ、注目を集めること自体が目的になる。この構図、現代のインターネットで繰り返されているものと、骨組みは同じです。道具が封筒からSNSに変わっただけで、人間の側は、あまり変わっていないのかもしれません。
ナレーション一方で、変わったものもあります。捜査の側です。
ナレーション防犯カメラ、Nシステム、DNA型鑑定、通信記録。草加次郎を取り逃がした時代の反省の上に、今の捜査インフラは積み上がっています。同じ手口の犯人が現代に現れたら、10か月も正体を隠し続けることはまずできないでしょう。
ナレーションそれでも、草加次郎が誰だったのかという問いだけは、もう誰にも答えられません。時効から半世紀近くが過ぎ、真相は完全に歴史の中に沈みました。
ナレーション付け加えると、時効が成立した今は、仮に本人が名乗り出たとしても、罪に問うことはできません。真相へ近づく道が、法律の側からも閉じているということです。
ナレーション残されたのは、装置に刻まれた4文字の名前だけ。
ナレーションそして、この10か月のあいだに火傷や怪我を負った人が、確かにいました。映画館の客席で、電話ボックスで、地下鉄の車内で。名前を残したかった誰かの都合に、たまたま居合わせただけの人たちです。犯人の謎ばかりが語られる事件ですが、その人たちがいたことも、記録として残しておきたいと思います。
ナレーション名前しか残さなかった犯人の話でした。最後まで見ていただき、ありがとうございました。
参考にした動画
単独ナレーション形式の事件解説について、導入の入り方・情報の出し順・締め方を確認するために視聴した(yt-dlp で自動字幕を取得し全文を確認)。
- criminal「【未解決事件】被害者の首には裁ちばさみが突き刺さったまま【とんかつ店で起きた事件】」約12分・約10.5万回 https://www.youtube.com/watch?v=6UEZiz2Nchg
挨拶を2文で切り上げ、すぐ「早速事件概要です」と本題に入る型。締めは語り手自身の見立てを述べたうえで、被害者への言葉で閉じる。本台本の締めに負傷者へ触れる一段を足したのは、この型を採ったもの - さむいぼラジオ「草加次郎事件。1962年から1963年にかけて起こった連続爆弾魔事件。芸能人から地下鉄や映画館、デパートまで爆弾が仕掛けられました。」約14分・802回 https://www.youtube.com/watch?v=Wstdtyf-uhQ
同じ題材。1990年代の郵便爆弾事件を先に置いて「それらの走りのような事件」と位置づける導入。犯人像を地名から推理するが、裏付けがないことを都度断っている。初発事件を島倉千代子さんの後援会事務所と明示している点も確認し、本台本でも実名に改めた - 真実の深淵「戦後日本の爆破事件、巧妙な手口と犯人像【草加次郎事件】」約19分・266回 https://www.youtube.com/watch?v=lYoy5U3pl5Y
同じ題材だが「1954年頃から爆破事件が発生」など事実の誤りが複数あり、構成の参考にとどめ、事実は一切採用していない
※ 自動字幕は句読点が入らず誤変換も残るため、構成と情報の出し順の確認に用い、事実関係は下記の出典で裏を取っている。
出典
- Wikipedia「草加次郎事件」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%89%E5%8A%A0%E6%AC%A1%E9%83%8E%E4%BA%8B%E4%BB%B6 (2026-08-13閲覧)
- 文春オンライン「“人気絶頂の18歳女優”もターゲットに…銀座線を爆発させた《恐怖の爆弾魔》のその後(昭和37年の事件)」 https://bunshun.jp/articles/-/86331 (2026-08-13閲覧)
- 現代ビジネス「発火装置に『呪』の文字…“姿なき”爆弾魔『草加次郎』、東京で起きた“未解決”怪事件」 https://gendai.media/articles/-/91838 (2026-08-13閲覧)
※ 最初の封筒が届いた日付(1962年11月4日/5日)、上野公園の銃撃の日付など、資料により1日前後する記述があるため、本文では断定を避けるか幅を持たせて記載しています。
※ 犯人が特定されないまま公訴時効(1978年9月5日)が成立した歴史的事件であるため、事件名・経緯を実名で扱っています。被害に遭われた方の描写は最小限にとどめています。
※ 本台本は書式・構成・調査の進め方をご覧いただくための自主制作サンプルです。
本ページは書式・構成・調査の進め方をご覧いただくための自主制作サンプルです。収録用の詳細指示(情報テロップ・図解)はスプレッドシート側に分離しています。ご依頼の際は、ジャンル・尺・文字数・書式・出典の確認範囲のご指定に合わせて執筆します。